部下から相談されたとき、つい「こうすればいい」と答えていませんか?
その助言で、相手は動き出せているでしょうか。
ある上司とのやりとりから、相手が自分で動き出すためのアドバイスの渡し方を考えます。
相談しやすさは、普段の距離感でつくられる
今回から「私が出会った良い上司列伝」というテーマでお届けします。
dazzly代表の筒井は、自分でも自慢していいと思えるほど上司運に恵まれてきたと語ります。その上司たちの振る舞いを言葉にすることが、恩返しにもなると考えているそうです。
一人目は、まだ中堅になる前に担当していた案件の責任者だった方です。 穏やかで優しそうな風貌で、話し方も本当に優しい口調だったといいます。そこにユーモアも持ち合わせていました。
当時はマネージャー職でしたが、かつては優秀な技術者で、とりわけデータベース周りに強かったと周囲から聞いていました。 そこで「いつか見せてくださいよ」とせがんだところ、返ってきたのはこんな言葉でした。
じゃあまあ、いつか伝家の宝刀を抜いてあげるよ。 でも多分、抜いたら錆びていると思うよ。
もしくは、錆びすぎて抜けないかもしれない。
自分の実績を、笑いながら伝えてくれる人でした。 マネージャーらしく構えることもなく、こちらが冗談を返しても、同じ目線で応じてくれました。
こうしたユーモアがありがたかったのは、その場が和むからではありません。
日ごろ話しかける頻度が上がるので、いざという時に相談できます。
相談は、必要になった瞬間に急にできるものではありません。日ごろのやりとりの積み重ねが、いざという時のハードルを下げてくれます。
高い技術力や実績がありながら、それを振りかざすことはない。冗談を交わし、気取らずに接してくれる。
そうした何気ないやりとりの積み重ねが、筒井にとって「困ったときに話しかけられる距離」をつくっていました。
「俺の時はこうだった」では、動けない
縮めておいた距離が助けになったのは、プロジェクトがうまく進まず、関係者ともめるかもしれないという局面でした。 当時サブリーダーだった筒井は、クライアント先からの帰りの電車で、隣にいたその上司に「この状況をどうしたら打破できるんですかね」とこぼしました。
返ってきた言葉は、指示ではありませんでした。
「これをやれ、あれをやれ」という感じではありませんでした。
「今の状況はこうだから、例えばこういうことができるんじゃないの」
「こういう手段があると思うよ」
「それ以外だと、こういうのもどう?」
「これをやるのは、ちょっとハードルが高いかもね」と、選択肢をいくつもくれたんです。
本当に親身なアドバイスでした。
こういう返し方をしてくれる人は、そう多くありません。 世の中には、自分の経験談を話してくれる人もいます。「俺の時はこうだったよ」も、参考にはなります。 けれど、いま起きているこの状況で何がいいかを一緒に考えてくれるのは、ありがたさがまるで違いました。
経験談を聞けば、そこから自分の状況に置き換えて考えることはできます。けれど、この上司はその一歩手前から付き合ってくれました。「こんな方法もある」「こちらは少しハードルが高いかもしれない」と、いまの状況に合わせて選択肢を一緒に広げてくれたのです。
選択肢は示しても、結論は渡さない
当時の筒井には、そうした経験がまだありませんでした。だからこそ、示された選択肢そのものが学びになります。
「例えば、この選択肢を取った場合はどうなると思いますか」と私が聞くと、「こういうことは起こるかもね」「でも、ここの部分は気をつけた方がいいよ」と答えが返ってきました。 本当に、そんなやりとりをしてくれました。
このやりとりで筒井が受け取ったのは、答えではなく視野の広がりでした。
ハッとさせられる選択肢ばかりで、「私は本当に何もわかっていないな」「何もできていなかったんだな」と思わされました。 急に視野が広がる感覚がありました。
自分にはもう何もできないと思い込んでいたところに、「こんなのもあるよ」と選択肢を示してもらう。それだけでも、状況の見え方は変わります。
そして筒井が自分の足で動き出せたのは、この上司が最後まで結論を渡さなかったからでした。
「俺はこれがいいと思うよ」と言われることはありませんでした。 私が「これだったら」「これだったら」と考えるのを、ずっと待ってくれていました。
そのうえで私が「じゃあ、こういうのをやってみますかね」と言うと、「筒井がやりたいなら、やってみたら」と言ってくれました。
結果として、それがきっかけでプロジェクトは軌道修正できました。 背中を押してもらったという感覚が、そこには残っています。
この上司は、選択肢は示しても、最後の選択までは奪いませんでした。
だからこそ筒井にも、「言われたからやる」のではなく、自分で決めて動いたという感覚が残ったのかもしれません。
頼ることも、部下側の技術
もっとも、この関係は上司だけでは成立しません。
「これ、どうすればいいんですかね」と相談できる人と、できない人がいるからです。
抱え込んだまま「できる限りのことはやっていますが、ダメなんです」で止まってしまう人もいます。
だとすれば、相談することそのものが一つの技術ではないでしょうか。 若手から相談を受ける側になった今、同じことを感じているといいます。
頼れるものには頼った方がいい、くらいの感覚でいいと思います。
答えてくれるかどうかはわからないけれど、とりあえず頼ってみる。
試してみるくらいのつもりでいい。 一回も試さないのは、もったいないなと思います。
試した結果、自分の意見だけを押し付けられたと感じたなら、そのときは距離を考え直せばいいと言います。 そうやってどういう時に頼ればいいのかが、部下側にも見えてきます。
頼ることは、部下側にも必要な技術なのかもしれません。とはいえ、困っているときほど「こんなことを聞いていいのだろうか」と構えてしまうものです。
だからこそ、日ごろの関係性が効いてきます。普段から冗談を交わせる。ちょっとしたことでも話しかけられる。そんな関係ができていれば、「ちょっと相談してもいいですか」の一言も出しやすくなります。
悩んでいる状態ごと、肯定する
もう一つ、いまだに覚えている場面があります。 状況がこじれ、自分にできることは何もないのではないか、それでもできることを探そう、と悩んでいた時のことでした。
それでも、できることを探そうとしていた頃です。
困っている私を見て、ニコッと笑って、こう言ったんです。
「まあ、いいんじゃない。やることがなくなると、ついサボっちゃうからさ。やることがあってよかったよ」
叱咤でも慰めでもありません。 悩んでいることを解決すべき問題として扱わず、その状態ごと肯定する言葉でした。
しかも筒井には、やることがなくなるとサボってしまうという自覚があります。
だから「見透かされている」とも感じたそうです。
それでも、サボっているところを叱られるよりは、はるかに救われます。
「悩んでいるのも仕事のうちか」と思えて、ふっと楽になったといいます。
この上司がしていたのは、特別なことではありません。
普段から話しかけやすい関係をつくる。
困ったときには、答えではなく選択肢を一緒に考える。
そして最後は、本人が決めるのを待つ。
「やることがあってよかったよ」というユーモアも、そうした関係があったからこそ、筒井には届いたのだと思います。
人が動けなくなっているとき、必要なのは必ずしも「正しい答え」ではないのかもしれません。
部下が悩んで動けなくなっているとき、あなたならどんな声をかけますか?
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難航するプロジェクトの現場で実際に起きたことをもとに、組織が自走するためのリーダーの関わり方についてお話ししています。
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記事について
株式会社dazzlyの公式Podcast「ユーモアと優しさで部下のブレーキを外す」での対話内容をもとに、DX推進や組織マネジメントを考える皆さまに向けて再構成したものです。
ITツールの活用やDX推進に関する課題やお悩みがあれば、お気軽に弊社までご相談ください。
Podcast:
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出演:筒井千晶(株式会社dazzly 代表)
インタビュアー:土井里美
編集・構成:dazzly編集部

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